■闇夜■


 僕がその事件に遭遇したのは、まったくの偶然だった。
 ジークデン砦の惨劇より十日ほどたったある日。僕はレナリア台地からガリラントへと
至る山道を、人目を避けるように歩いていた。想像したくはないが、僕は公然と北天騎士
団へ反旗を翻したのだ。兄達とて、追手を差し向けないわけにはいか
ないだろう。
 もしも捕まったとして、ダイスダーグは、ザルバッグはどうするつもりなんだろう?
 罪人として処罰するのだろうか。それともベオルブの名を剥奪した上で放逐するだろう
か。アルマの泣き顔が浮かんできてしまったので、それ以上考えるのを止めた。
 僕は道を見失っていた。もう騎士団には戻れない。兄達の考えを理解できないし、もは
や彼らを信用することも信頼することも出来なかった。僕は、裏切られたのだから。
 しかし、行くあてもなくさすらうのも、眼界がある。目的地も無いままに歩いてきたが、
路銀ももうすぐ底を尽く。今まで、貴族として何の苦労も無く暮らしてきた。士官アカデ
ミーではそこそこの(兄達には比べるべくも無いが)成績を修めていた。まもなく騎士の
叙勲を授かる予定でもあり、自分のことをもう一人前だと思っていたが、実際に一人にな
ってみれば何も出来なかった。正直、どうやって金を稼げば良いのかも分からなかった。
 いっそ、あの時ディリータやティータと一緒に死んでいれば良かった。自分一人生き残
った不運を恨んだりもした。アルマを悲しませたくはなかったが、こんな山の中で野垂れ
死ぬよりは、楽だったのにと思った。しかしそれが甘えであることも十二分に承知してい
た。
 生き延びなければ。そしてあの事件の是非を兄達に問わなければ。それは僕に課せられ
た義務なのだ。



 街道を避けてわざわざけもの道を歩いていたのは、追手を避けるためだった。その緊張
感があったからこそ、僕は彼らに悟られる前に身を隠すことができた。
 そろそろ日も暮れようという時刻。おそらく、盗賊だろう。5人の男が、けもの道を歩
いてくる。そろって皮鎧、小剣、短剣、弓矢などの軽装備だ。骸旅団の残党かも知れなか
った。男の一人が一頭のチョコボを引いている。戦利品らしき血塗られた皮袋がいくつも
括り付けられていた。そして馬上には、一人の女。
 いや、正しくは少女と呼ぶべきか。遠目にも幼く小さなその姿は、アルマと同じくらい
の年齢に思えた。14〜5歳くらいだろうか。憔悴しきった表情で、うなだれている。両
手は麻縄で縛られていた。彼女も、戦利品の一部であろうか。どことなく品の良い、美し
い娘だった。顔立ちも、どこかアルマに似ていると思った。
 少女の行く末は明らかだった。男達の慰み者にされた挙げ句、実家が金持ちであれば身
の代金と交換される、そうでなければ娼館にでも売り飛ばされるのだろう。今は、乱世な
のだ。力無き者は、強者に虐げられるほか道ない。それがこの乱れきった世の、ただ一つ
の理なのだ。
 そして、自分もまた力無き者だとうことを、僕は自覚していた。自分自身を鍛えるため
の旅は、始まったばかりだ。男達の姿は遠ざかりつつある。近くにアジトでもあるのか……。
誰かの「もう少しだ」と言う声が聞こえた。
 5対1では勝ち目は無い。追ったところで、何もできない。
 幼い日、喧嘩に負けて、悔し涙を滲ませながら帰ってきた僕とディリータに、ザルバッ
グはこう言った。勝ち目の無い喧嘩などするものではない。勝てるまで己を鍛え、それか
ら勝負を申し込め、と。それは真理なんだろうけど……。
 僕の脳裏に、大嫌いなあの男の言葉が甦る。
 ───たかが平民の女一人に命を賭けるなど、愚かなことだ……。
 僕はその声を否定した。
 僕は、お前とは違う。違うんだ!
 そして、盗賊たちの後をつけはじめた。



 たどり着いたのは、小さな山小屋だった。
 男達は、乱暴に戦利品の荷物を引き降ろすと(あの少女共々だ)、山小屋の中へ運び込
んだ。一人はチョコボを引いて、裏手に回る。たぶん厩があるのだろう。僕は、自分が何をしよ
うとしているか理解できないままに、チョコボを引いた男についていった。
 男は、全くの無防備だった。
 優しくチョコボをなだめながら、くつわを解いて水桶や飼葉を用意する。僕には、この
男が盗賊だとは信じられなかった。彼は、ごく普通の農夫に見えた。腰に指した小剣さえ
無ければ。
 僕は足音を殺して、男の背後に忍び寄った。鎧止めの金具がかちゃかちゃと鳴るのが気
になったが、幸い男はチョコボの世話に気を取られているようだ。僕は短剣を抜きざま、
男を背後から突き倒した。背中に馬乗りになって、首筋に刃を立てる。
「声を出すな」
 僕の口から、とても自分の声とは信じられないような、しわがれた声が出た。男は、刃
に触れないように気を付けながら、ゆっくりと首を振った。
「大声を、出すなよ」
 もう一度言って、交差させた男の腕を左手一本で押さえつける。チョコボが、不安そう
に鳴いた。
「お前達は、何者だ」
 低く抑えた声で聞く。男も、囁くような声で答えた。
「こ、殺さないでくれ。頼む」
「答えろ」
「骸……旅団のものだ」
 やはり、盗賊なのか。
「今は、『仕事』の帰りか?」
「そうだ。昨日の夜、麓の村を襲った。しょ、食料を奪っただけだ」
 男の言葉が嘘だと言うのはすぐに分かった。運ばれていた荷物の中に、食料らしき物は
無かった。全て、金かすぐに換金可能な貴金属や調度品のはずだ。
「……女は。何者だ」
「村長の娘だ。その村の村長は……悪どい高利貸で……俺達は制裁のために……」
「お前は、何人殺した?」
「俺達は、ぎ、義賊だ。殺しはしねぇ」
「荷物に血がついていたぞ。お前は昨夜、何人殺した?」
「3人……」
 僕は、男の首に刃を滑らせた。男は喉を抑え、声も出せずに昏倒した。辺りには、むせ
返るような血の匂いが立ち込めた。
 チョコボは不安気に土を蹴っている。血の匂いを嗅いでもパニックを起こしていない。
戦馬としての訓練を受けているのか。盗賊が持つには良いチョコボのようだ。
 あと、4人。
 厩を出て、山小屋へ移動する。
 馬鹿なことをしている、と思った。
 僕は名前も知らない誰かのために、犬死にしようとしている。
 その少女が妹に似ているという、ただそれだけの理由で。



 月の無い闇夜。
 星明かりの中、山小屋はまるで幻のように見える。
 扉も窓も、すべて閉め切られている。
 しかし、中に人がいるのは確かだった。
 僕はドアに耳を押し付け、中の様子を窺った。
「……チュコボがうるせぇな。あいつ何やってんだ?」
「女の扱いが下手な奴は、チョコボの扱いも下手なんだぜ」
 げらげらと笑う声。
 僕は声から彼らの配置を読み取ろうと、集中する。ドアのすぐ隣に一人いるのは確実だ。
上手く行けば、突入するときに不意をついて、一人仕留めることができるかもしれない。
それから、中央に一人。声の大きさからして、この盗賊団の頭領かも知れない。残り二人
の位置は分からない。もどかしい。
 そして、もう一人、囚われている少女もいるはずなのだ。彼女を助け出すことができな
ければ意味はない。彼女の位置が一番重要だ。頼む、声を出してくれ。位置を教えてくれ。
 そう、僕は彼女を助ける気になっていた。『たかが平民の女一人』に命を賭けるのだ。
勝てない喧嘩をしようとしているのだ。
「お頭、この女どうするんですかい?」
「ああ、身の代金をふんだくって、あとはどこかに売っぱらっちまおうぜ」
「どうせ返す気はねぇのに、身の代金まで取ろうてぇんですか?」
「うわははは、大悪党だなぁ、お頭!」
「黙れ! てめぇらみてぇなクズに言われたくねぇぜ」
 もう一人わかった。中央の頭領の隣にいる。
「ねぇ、お頭。どうせ傷モンになるんだ。いま俺達が頂いちまっても、誰も困りませんよ
ねぇ?」
「おめぇ、それしか考えてねぇな」
「だってこんなに上玉なんですよ」
「売り物に手ぇ出すんじゃねぇよ。金が入りゃ、女なんかいくらでも抱けるだろ」
「この女を見つけたのは、私ですよ。分け前は等分、ていうお頭の考えに異を唱えるつも
りはありませんがね。でも、少しは役得ってモンがあったって……」
「チッ、うるせぇ男だな。わかったよ、好きにしな。だが、ぶっ壊すんじゃぁねぇぜ。売
り物だってことを忘れるな!」
「ひっ」と息を呑む音。僕は緊張して、抜き身の剣を握り締める。
「ほら、お嬢さん。奥へ行こうぜ」
「嫌っ! 嫌っ! 離してっ!」
 正面奥だ!
 僕はドアのノブを回す。開かない! 鍵がかかっている!
「くそッ!」
 ドアへ体当たりする。2回目で鍵が吹き飛び、扉が開かれた。
 僕は、正面奥に全力で突進した。



 痩せた男が目を剥いていた。男は慌てて少女を突き飛ばすと、腰の短剣を抜こうとする。
 僕はかまわず、剣を構えたまま、スピードを落とすこと無く突っ込む。
 衝撃!
 男は壁に激突して床に倒れた。抑えた腹から血が滴る。もう戦力にはなるまい。
 僕は、座り込んで震えている少女を庇うように立ち、両手で剣を構える。
 前を向いたまま、小声で少女に語り掛ける。
「立て。チョコボには乗れるか?」
「……はい……」
 震える声。よろめきながらも、立ち上がる気配。
「あ、あ……ありがとうございます」
「礼は助かってからだ。なんとかして道をあけるから、裏手の厩にまわってチョコボに乗
れ。僕には構わず逃げるんだ。いいな?」
「はい。……あの」
 少女は一瞬躊躇った。
「あの。助からない時は、その剣で私を殺してください。お願いします」
「分かった」
 しかし少女の言葉を了承したわけではない。反射的に答えてしまっただけだ。
 いざという時、僕はこの少女に引導を渡すことができるだろうか?
 アルマに似ているこの少女に?
 動ける敵は、残り3人 。頭領らしき大男。立派な両手剣を持っている。そのそばの背
の低い男。今小剣を抜いたところだ。入り口近くに立っていた、背の高い男。短剣を構え
ているが、近くのクロスボウに目をやっている。おそらくそれが、男の本来の得物なのだ
ろう。しかし、狭い屋内で使える武器ではない。「明かりが漏れる」という頭領の言葉に、
慌てて扉を閉める。
「まだガキじゃねぇか。お前、何者だ?」
 頭領が口を開く。
「剣士ラムザ」
「賞金稼ぎか?」
「違う」
「5対1だ。勝ち目はねぇぜ。大人しく降参しな」
「3対1だ。外にいた男は、もう死んでいる」
「チッ! あの間抜けが……」
 次に、頭領の側の背の低い男が話し掛けてきた。
「あんた、賞金稼ぎじゃないんだな?」
「ああ」
「目的は、その女か? 村長に依頼されたんだな?」
「……そんなところだ」
「それなら、仕方ねぇ。女共々、見逃してやるから剣を収めな」
「見逃す気があるのなら、その剣をおいて壁まで下がってくれ。そうしてくれたら、これ
以上争う気はない」
「それはできねぇ。あんたのその立派な剣で、ぶすりとやられねぇ保証はねぇからな」
 もちろんこの男達が、僕らを本気で逃そうとは思っていないはずだ。
 ならば、何のためにこんな無駄な会話を……。
 時間稼ぎか?
 入り口の男がいない!
「あっ!」
 少女が叫ぶ。
 僕は右に振り向きざま、牽制のために剣を振るう。
 背の高い男の短剣が、右腕を掠めた。
 男はにやりと笑うと、
「……勘がいいな」
 呟きながら、再び入り口近くまで後退した。
 中央の二人は動かない。おかしい。チャンスのはずだ。
 なぜ、全員で僕を仕留めようとしなかったのか……。
 突然、右足が力を失い、僕は膝をついた。
 体から力が抜ける。
 ───毒か!
 自分の迂闊さを呪う。さっき右腕を掠った短剣に、麻痺性の毒が塗られていたに違いな
い。相手は盗賊だ! 注意すべきだった!
 万事休す。床に崩れ落ちながら、覚悟を決めた。
 これでは、少女をとどめてやることさえできない。
 やはり、犬死にだ。
 背後から、泣き叫びながら少女がすがり付く。
 ごめん、アルマ。ごめん、ディリータ……。
 その時。
 ドアと窓が同時に蹴破られ、何人かの人影がなだれ込んだ。
「いと気高き存在よ、我今願い奉る……」



 窓から飛び込んだ、がっちりした体格の白いローブ姿の男が呪文を唱えていた。
「……天駆ける風、力の根元へと我を導きそを与えたまえ! エスナ!」
 声が響くと同時に、体の痺れが瞬時に消えて行く。
 白魔法だ!
「坊主! まだ終わっちゃいねぇよ! 剣を取って戦いな!」
 顔を上げれば、褐色の甲冑の戦士が、戸口の長身の男と争っているところだ。長剣と短
剣ではいかにも分が悪い。男はクロスボウを拾い、距離を取って後退した。
 僕は剣を拾い、少女の手を取って白いローブの男の方へ送り出す。
 ローブの男と同じく、窓から乗り込んできた細身で軽装の男が、
「危ないところだったな」
 すれ違いざまに声をかけていった。
「我が言葉は、見えざる力を現世に導く道標なり……」
 戸口を塞ぐように、長いブロンドの女性が立っている。低い声で、不思議な抑揚の言葉
を紡ぎ、手に持ったワンドをゆらゆらと揺らめかせる。青いマントと、目深に被った特徴
的なとんがり帽子を確認し、頭領が泡を食って怒鳴り散らす。
「やべぇ、黒魔法だ! あの女を先に仕留めろ!」
「てめぇの相手は、この俺なンだよッ!」
 甲冑の戦士と頭領は、互いに長剣を振りかぶって、がっちりと組み合った。
 背の低い男が、ダーツを振りかぶる。先ほどの短剣と同じように、毒が塗られているか
も知れない。
「波動拳!」
 突然、男が顎を仰け反らせて、ダーツをばらまきながら仰向けに転がった。軽装の男が、
構えを解いた。どうやら彼の仕業らしい。
 もう一人いたはずだ。見れば、長身の男がクロスボウの巻き上げを終えて、かつぎあげ
るところだった。
「……!」
 僕は射線を塞ぐようにして走り込み、渾身の力でクロスボウを叩き上げた。クロスボウ
は壊れて分解し、矢が天井に突き刺さる。
「上出来だ、坊主!」
 突然背後から首筋を捕まれて、僕は壁に向かって放り投げられた。
 頭をぶつけないように首を曲げながら、衝撃に耐える。
 抗議の声を上げようとする僕の前で、甲冑の戦士と軽装の男が後退するのが見えた。
「……暗雲に迷える光よ、我に集いその力解き放て! サンダラ!」
 女性の声と共に、まばゆい閃光が走る!
 思わず目を閉じた瞼の裏を透かし、青い光が踊っていた。
 衝撃音とともに突如湧き起こった自然ならざる光は、出現時と同様、何の前触れも無く
消え去る。
 目を開けば、酷い火傷を負った盗賊たちの姿があった。
 頭領を残して、二人の男は崩れ落ちる。
「ちくしょうがぁぁぁっ!!!!」
 頭領は吠えながら、褐色の甲冑の戦士に向かって突進する。
 戦士は剣を構えると、裂迫の気合を込めて大声を張り上げる。
「神に背きし剣の極意……その目で見るがいい! 闇の剣!」
 目の前のなにかをなぎ払うように、、ぶんっと長剣を振り下ろす!
 頭領は、戦士の5歩も手前にいるのに、目を見開いて立ち止まる。
「が……はァ……」
 そして、ゆっくりと息を吐くと、その場で倒れこんでしまった。
 何が起きたのか分からずに戦士を見ていると、彼は兜を脱いで僕に向き直り、笑う形に
唇を捻じ曲げた。
 戦士の瞳が、赤く、凶々しく輝くのを、僕は呆然と見守った。



 山小屋の中は散々な有り様だったので、僕たちは近くの空き地に野営の用意をして、夜
を明かすことにした。
「坊主、おめぇ名前は?」
「僕はラムザ・ルグリア」
「ふン?」
 男は眉をひそめて、いぶかしんだ。
「聞いたことがあるような気がするンだが……」
「あなたこそ、名前を聞かせて欲しい。助けてくれてありがとう」
「聞くンじゃ無かったと後悔するぜ。俺の名はガフ・ガフガリオンだ」
 その名前は聞き覚えがあった。
 五十年戦争の生き残り。あまりに残忍な振る舞いに騎士資格を剥奪された、神に背きし
男。
 暗黒剣を振るう、『闇騎士』ガフガリオン。
「ダークナイト? あの?」
「そうよ、『あの』ガフガリオンよ」
 僕の隣でお茶をすすっていた少女が、そっと手を回して僕の袖を掴んだ。怯えている。
彼女も『闇騎士』の噂は知っているらしい。
「僕らを助けたのは偶然なのか?」
「まぁ……偶然と言えば、偶然だな。もともと俺達は、あの骸旅団の残党に賭けられた賞
金目当てで来ただけだからな」
「そうか……」
 僕はもう一つ聞きたいことがあった。
「ガフガリオン。あなたの、あの剣は何なんだ?」
「あぁン? 俺の剣だぁ?」
「離れていた相手を、斬ったように見えた……。あの剣だ」
 鍋の中身をマグカップに移しながら、あの魔道士の女性が代わりに答えた。
「ああ、あれは一種の魔法さね」
 ハスキーな声の持ち主のその女性は、とんがり帽子を脱いでみれば、なかなかの美人だ
った。彼女はカップを僕に渡して、隣に座って艶然と微笑んだ。
「飲みな。あったまるよ」
「ありがとう。……魔法、だって?」
 ガフガリオンは不機嫌そうに黙ったままだ。
「そうさ。あたしらの使うやつみたいに洗練されたのじゃ無いけどね。原始的ではあるけ
れど……確かにあれは魔法だよ。剣士なら誰にでもできるってものじゃない。ガフガリオ
ンの執念の賜物さ」
「悪かったな、洗練されてなくてよ。自己流なんだ、仕方ねぇだろ」
 ガフガリオンは吐き捨てる。
「あんまりいいもンじゃねぇぞ。神なんざくそッ食らえ! そう言いつづけて身に付けた
力だ。おかげでついた二つ名が『闇騎士』さ。もっとも後悔なンかしちゃァいないが」
「あんたも、力が欲しいのかい?」
「……そうだ……」
「そうかい」
 その女魔道士の目は、ガフガリオンのようになっちゃあいけないよ、と言っているよう
に見えた。袖を握る力が強くなる。反対側に座った少女が、心配そうに僕を見つめていた。
言いたいことは同じだろう。僕は、彼女に故郷の妹を重ねていた。
 大丈夫だよ。僕はきっと、ガフガリオンのようにはなれないよ……。



 皆が寝静まり、僕とガフガリオンは二人で夜番に就いていた。
「おめぇ、ラムザと言ったか」
「ああ」
「何故、誇りあるベオルブ家の名を名乗らない?」
 僕は驚いてガフガリオンに向き直った。
「あなたは、知って……」
「安心しろ。他の奴等に聞かせる気はねぇよ。だからわざわざ気を遣って、今まで待って
やったンだろうが」
「……感謝する」
「名門貴族の師弟が、なんであんなことをやらかしたンだ?」
 彼が言っているのは、先ほどの盗賊のアジトでの事件のことだけではないような気がし
た。おそらく彼は知っているのだ。ジークデン砦のことを……。
「……僕には、兄達の考えが理解できなかったんだ」
「ダイスダーグや、ザルバッグの考えを?」
「知っているのか!?」
「面識はある。おめぇの名も、ダイスダーグから聞いたンだよ」
 彼、『闇騎士』と兄達が知り合いだとは驚きだった。噂で聞いたガフガリオンの行いは、
兄達の信奉する『騎士の規範』とはかけ離れたものだったからだ。やはり、兄達には僕の
知らない面がまだたくさんあるのだ……。
「僕は……僕自身の誇りを守るために、ベオルブの名を捨てたんだ」
「ほぉ……」
 ガフガリオンは意地悪く微笑んだ。
「おめぇの誇りってのは、無謀な戦いを挑んで犬死にすることか」
「それは……!」
「否定はできないはずだぜ」
 そうだ。否定できない。
 僕は自分の信じる正義に従って、兄達と決別した。
 それは勝てもしない相手と戦い、死んで行くための決意ではない。
 しかし、しかし。
 今日の自分の行動は、正しかったと言えないまでも、間違っていたとは思いたくないの
だ。助けを求めるものを見過ごすのを肯定したら、僕の誇りはどこへ行くというのだろ
う……。
「まぁ、いい。若い時ってのはそういうもンさ。恥ずかしながら、このガフガリオンにも
苦い青春時代はあったンだ」
「あなたに? ……想像できないな」
「笑うンじゃねぇよ! 失礼なガキだぜ、まったく……」
 この時不思議と、世間では悪鬼のように伝えられるこの男が、それほど悪い男ではない
ような気がしていた。
「まぁ、貴族のボンボンが、自ら辛い世間の風に当たろうてぇのは、悪いことじゃねぇと
思うぜ」
「ああ、ありがとう」
「なんなら、このガフガリオン様の傭兵隊に入ってみねぇか? おめぇ、どうせ当てなん
かねぇンだろ」
「いいのか?」
「ああ。ただし、自分の食い扶持くらいは稼げよ。働かねぇ奴に食わせる飯はないからな」
「分かっている。僕を一介の剣士ラムザとして、あなたのもとで使ってくれ……」



 こうして僕は、当座の自分の居場所を確保した。
 獅子戦争勃発より一年ほど前の、ある一夜の出来事。
 いずれ敵味方に別れて戦うことになる『闇騎士』ガフガリオンとの、それが出会い
だった。



『闇夜』END
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